暇のパラメータ

暇なので書いてます。

君はそういうことのために生まれてきたのか

ダイソンの掃除機が故障した。

3年ほど前に近所のユニクロでやっていたくじ引きで手に入れたものだ。なんかその日はやたらと頭がぼうっとしていた。寝不足だったか疲れだったか。とにかくあの日は何の思考も働かないまま、ただトロトロと動いていた。何を買ってるのかも曖昧で、無意識にくじを引き、紙を開き1等とあっても何とも思わず、訳が分からないままダイソンの掃除機を抱えて帰った。何ら喜んだ様子を見せず、ぼやっとダイソンを持ち帰る男。店員さんからしたら本当に甲斐のない奴に当たってしまったと思っているだろう。

ちなみにそのユニクロではそれ以降服を買っていない。申し訳ない。

 

そんなこんなで入手したダイソンだが、さすがに機能は優秀で、以来ありがたく愛用していた。しかし、さすがにずっと使っているので、最近は充電の持ちが悪くなってきていて、とうとうパタリと動かなくなってしまった。よく見ると電源ランプが赤点滅をしており、ネットで調べるとやはりバッテリーの寿命とのこと。という訳で早速交換用バッテリーを注文。1万円弱もしたが、本体をタダで手に入れているので全然良しとする。

 

バッテリーが届くまでは少々時間がかかりそうだったので、それまでの掃除をどうしたものかと思案すると、長らく存在を忘れていたルンバに目が留まった。そう。私の家にはルンバもあるのだ。これは職場の先輩から頂いた。貰い物だけで我が家の掃除機事情は非常に充実している。

とはいえルンバは最初の数回使っただけで、それこそ3年近く使用していない。結局この家の広さでは自分で掃除機かけた方がスムーズという話だ。以降、ただダイソンの横で近代的な生活様式を演出するインテリアと化していた。

忘れていて申し訳なかった。今こそ君の出番だ。そう心の中で呟き、スタートボタンを押す。かなり久々の稼働なので、ちゃんと動くか心配だったが、軽快な起動音を奏で、無事走行を始めた。

 

そこからしばらく、まじまじとルンバの走行を眺めていた。しかし……なんというか、非常にもどかしい。全然私が使用していない区域を念入りに往復し、やってほしい部分に全然向かってくれない。やっと行ってくれたと思ったら、途中の加湿器に少し接触し、ぐるりとあらぬ方向へ転換して、再びさっきの場所を掃除する。これは型式が古いからだろうか。絶妙に出来が悪い。もはや棒をつけて、掃除してほしい場所に誘導したくなってしまう。

とりあえずじっと見ているのも違うので、ここはルンバを信用し、その間に洗い物をすませることにした。……が、やはり気になる。さっきから音がずっと同じあたりから聞こえる気がする。結局集中できないまま、ちらちらと様子を伺ってしまった。そして案の定、電源コードを巻き込んで停滞していたりする。しょうがないので電源コードは一旦上に上げて、障害物になりそうなものも、極力壁に寄せた。もう絶対自分で掃除機かけた方が楽だ。

 

……まあでも、なんかかわいいんですけどね。不器用ながら一生懸命走っている感じとか、充電器によろよろと自分で帰って行く様とか、走行終了したときに流れる褒めてくれと言わんばかりのメロディとか。出来が悪いぐらいが愛嬌を感じてしまうというか。やっと目当ての場所を掃除してくれると、それだけで褒めたくなってしまうというか。

でも問いかけたくもなる。果たして。君はそういうことのために生まれてきたのか。

 

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数日後。またルンバを起動してみる。あらかたルンバの邪魔になりそうな箇所は対処し終えているので、この前よりは安心して任せられる。

私が洗面所で歯を磨き始めると、ルンバがやってきた。前回は洗面所の入口にいい角度で進入できず、何度も切り返しながら、ようやくちょっと掃除できたぐらいの難所だ。だが何と今回は一発で成功。しかも壁面に沿って全周を無駄なく掃除できている。これは絶対に洗面所の構造を理解している動きだ。そういえばルンバにはそういう学習機能があると聞いたことがある。

「お前!やるじゃないか!」と思わず声に出してしまった。そして効率よく掃除し終えて、洗面所を後にするルンバ。出来の悪い子が見せた、突然の成長。ただ自動掃除機が自動で掃除しただけのことなのに、私の心は大きく揺さぶられた。やはり君はそういうことのために生まれてきたんだな。

 

その後はというと、私が歯を磨いている間にルンバは4回も洗面所を掃除しにやってきた。絶対さっき褒めたからだ。完全に私にまた褒められたくてやっている。兄さん!俺上手でしょ!どうすか!という声が聞こえる気もしてくる。リビングはまだ掃除できていないのに。……全くかわいいやつめ。

 

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翌日。存外、ダイソンのバッテリーが早く届いてしまった。

もう少しだけルンバを使ってやりたい気がして、ダイソンのバッテリーを替えるのを少し躊躇ってしまう。正直、名残惜しい。最初はまさかこれだけ愛着が湧くとは思わなかった。

でも一方で、ダイソンが復活したら、ルンバはもう使わないことも分かっている。だってそっちの方が圧倒的に便利だから。残酷だがそれは致し方ないことである。ならば、これ以上情が湧くのはお互いによくない。3年後にまた会おう。そんなキザったらしいセリフを思い浮かべながら、ダイソンのバッテリー交換を始めた。

 

そしてすぐに、サイズの合うプラスドライバーが家になかったため中断を余儀なくされた。こういう作業は思ったときにやれないと、途端に強烈に面倒になる。という訳で、まだダイソンは放置されたままだ。それにしても、どうして私の家にはプラスドライバーが全然ないのに、マイナスドライバーは様々な種類のものが次々と見つかるのか。

 

これはもしかしてダイソンが気を利かせて、もう少しルンバとの時間を作ってくれたのではないか。絶対にそうに違いない。

そうやって自分のルーズさに向き合わずに、妄想に逃げている現状である。