暇のパラメータ

暇なので書いてます。

バリー・マーシャル

走ることが全く好きではない。特に長距離。理由はシンプルで、楽しくなくて疲れるから。

私は中学から大学までの10年間、一生懸命卓球に打ち込んでいた。卓球自体はひたむきに努力していたと思う。ただ、その中で義務的に出現する走り込みだけは、どうしてもやりたくなかった。

走るほど弱くなる。走り込みは卓球選手にとってタバコと一緒。百害あって一利なし。などの暴論を振り回し、私は最大限走り込み練習を回避するように立ち回っていた。

まあでもそれは言い過ぎだとしても、卓球選手に走る力など必要ない、そう今でも信じている。

 

ちなみに以前、毎朝通勤電車に間に合わすために走っているという文章を書いたことがある。

嫌いと言いつつ、毎朝走っているじゃないかと思われるかもしれないが、それは走りたくないを上回るほどの、朝の私のルーズさ故である。また別の問題。

kikikeke.hatenablog.com

 

さて、ここからが本題なのだが、そんな私が職場のあれやこれやで、リレーマラソン大会というものに出場することになってしまった。まさかこの私がマラソンだなんて。

なにやら1.2kmの周回コースをチームでタスキを繋ぎながら、3時間走るというものらしい。私の参加するチームは6名なので、一人30分は走る計算になる。

まさに私の嫌いなやつである。しかしせっかくお誘いを受けた訳だし、チームの中では若い方で一応運動部の出身として、多少の期待はされてしまっている。全く走れずにヘロヘロでは格好がつかない。

私は何とかする方法を考えた。まず最初に思いついたのは、箱根駅伝の選手がみんな履いていることで話題になった、ナイキのカーボンプレート入り厚底シューズを購入することだった。結局、カーボンが最強。私が卓球人生で学んだ大いなる知見である。一生懸命素振りや筋トレを繰り返すより、高いお金を出してカーボン入りの最新ラケットを使った方が球は速くなるのだ。

しかしこれは断念した。本来私はこうした無駄な出費をいとわないのだが、素人がこれを履くとかえって故障するという話を聞いたためだ。

 

という訳でプランB。GWに野尻湖に旅行したのだが、何とそこには今年の箱根駅伝を優勝した駒澤大学陸上部の合宿所があったのだ。そこで大八木監督の激を思い浮かべながら、湖畔を軽くランニングしてみた。

野尻湖と言えばナウマンゾウ

とりあえず記念撮影

駒沢大学陸上部と同じコースで合宿をしてきましたよ!」私は写真を添えて、仲間に意気揚々と伝えた。もちろん実際には、湖畔の周りをほぼ歩いていただけに過ぎない。

しかしグループラインでは「なんてやる気のある新星が現れたんだ」などと盛り上がりを見せていた。そうして期待値を上げるだけ上げて、いざ走ったら全然ダメダメ。そんな道化を演じる作戦に切り替えたのである。

 

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それ以来一度も走ることなく当日。なんと私はスタートの1周目を任されてしまった。

ゲートの前に集う市民ランナーたち。見るからに真剣。そこに混じっていると、なぜだか私も高揚してきて、走れる気がするから不思議だ。

そしてスタートの号砲が響き渡る。

 

瞬間。ランナーたちが鮮烈にロケットスタートかましてきた。もう全力疾走レベルの勢いだった。一瞬で集団から引きはがされてしまう。

その時点で落ち着くべきだったのだが、判断を誤り、私も集団に食らいつこうとスピードを合わせてしまった。自分が1.2kmという距離をどれくらいのペースで走れるものなのか、私は知らなかったのだ。なぜなら碌に練習をしていないから。完全に身の丈に合わない闘いを挑んでいた。

その結果、1/3を過ぎたあたりで息が詰まり、足が絡まり、気が滅入り、心が折れた。これぞランナーズロー。もう勘弁してくれ。

途中、妄想合宿のことを思い出し、妄想の大八木監督に激を飛ばしてもらったが、何の力にもならなかった。ああいう言葉は、苦楽を共にしてきた監督から言われるから元気づくのだ。なんら関係性のない、妄想のオールバック眼鏡の厳ついおっちゃんに「男を見せろ!」と言われても、煩わしいとしか思えなかった。

後半大幅に失速しながらも、惰性でよたよたと走り、命からがら仲間にタスキを繋ぐ。倒れこみながらタスキを渡すシーンだけは一丁前に上手にできたと思う。

 

結局、私は5周6kmを走った。チームとしては楽しめればいいという雰囲気で、結果にこだわっていなかったので良かった。タイム的には私は迷惑をかけず、貢献もせず。まあそれでいい。

そして、何とか走り終えた私に残ったものは、計り知れないダメージだけだった。足だけでなく、体のいたるところが痛い。だるい。もう絶対に走りたくない。

 

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翌日。普通に出勤。

筋肉痛はすさまじく、「うぅっぐ」「ぐぁっ」「いげぁ」などの唸りを発声しながらでないと動くことができない。特に階段を降りることがつらくてしょうがなかった。

 

それでも普通に出勤。恐ろしい。

だが、それよりも恐ろしいのは、その日が職場の卓球部の練習日だったことだ。私はマラソンの翌日というとんでもない日程だったことに気が付かず、軽々しく練習に行きますと答えてしまっていたのだ。

こんな絶望的筋肉痛のなか、卓球をするなんてありえない。絶対に事前に断っておくべきだった。全く私のずさんなスケジュール管理には呆れてしまう。

だが、これまで何度も予定が合わず、やっと今回初めて練習に参加できるということで、メンバーも楽しみにしてくれているようだったので、もういまさら無しにはできない。とりあえず覚悟を決めて卓球に臨むことにした。

心配なのが、最悪のコンディション故に、実力を発揮できず、卓球部のメンバーにがっかりされてしまうことだった。今の職場に来た際に、私は意気揚々と自分は卓球が強いと吹聴しており(書いていて気が付いたが、私はやたらとハードルを上げる癖がある)、それでボロボロに負けるのはダサすぎる。

 

仕事を最小限のエネルギーでこなし、終業。早速体育館に向かう。この時点で体は未だボロボロ。卓球場が地下にあったので、階段を降りるだけでかなり苦労した。

そして若干不自然な歩き方のまま、卓球部の皆様と顔合わせをした。非常に暖かく迎え入れていただけた。

挨拶もそこそこに早速練習を始める。そしてボールを打ち始めたとき、とんでもないことに私は気がついてしまった。

 

 

全く体が痛くないのだ。

最初はテーブルテニスプレーヤーズハイになっているだけかと思ったが、そんなことはない。やはり筋肉痛を感じないのだ。それだけでなく、フォアサイド遠くのボールにも問題なく飛びつけたし、バックサイド深くのボールにも回り込んでフォアハンドを決めることができた。一切ダメージを感じさせないフットワークだったのである。

 

これが何を意味するかお分かりいただけるだろうか。走っているときに使っている筋肉と、卓球で使う筋肉とは、全くの別物だということなのである。つまりどれだけ走り込もうとも、卓球能力の向上には一切関係ないのだ。

結局その日、私は本来の実力を遺憾なく発揮し、部員全員に勝利することができた。

 

かくして、走り込みは無駄であるという私の長年の仮説が証明された訳である。

ふと私はバリー・マーシャルのことを思い出した。バリー・マーシャルはピロリ菌が胃潰瘍の原因であることを、自らが飲むことで証明して見せた。今の私と全く同じである。偉大なるノーベル賞受賞者の彼と肩を並べて、新たな常識を打ち立てられたこと、非常に嬉しく思います。

 

全国の悩める卓球選手たちに告ぐ。今すぐ走ることをやめよ。