暇のパラメータ

暇なので書いてます。

豚汁4

「究極の豚汁に行き着いた」

 

先日、飲み会で森本と久々に遭遇した。相も変わらずスッとした顔を崩さない男前だったが、飲み会も終盤に差しかかった頃、唐突に森本は言い放った。

何やら、人生で最も美味しい豚汁が出来たらしい。

 

というかこの人は、まだ豚汁生活を続けていたのか。前に電車で豚汁の話をしたのは、半年以上前になる。

全く、最初は効率やコスパ至上主義だったはずが、今や美食を追求するようになってしまっている。あと、何かにつけて究極究極うるさいが、山岡史郎にでも取り憑かれたのだろうか。

 

対抗して至高の豚汁を語る海原雄山は現れなかったが、森本があまりにも豪語するため、2次会は森本の家で行い、究極の豚汁を皆で食べてみようということになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まず、家に入って目に付くのが、業務用と家庭用の中間くらいのサイズの鍋だった。

若干偏見めいた表現になるが、料理にはまる独身男性は、得てして調理器具にこだわる。

「大量に作るのが前提だから、合羽橋で寸胴を買ったんだ。これなら大量に作っても、ちゃんと汁っけも残せるぜ」

得意気に語る森本。豚汁に汁があるのは当たり前だろうが、と思ったが口にはしなかった。

 

早速豚汁作りに取りかかる森本。その様子を皆が缶ビール片手に眺める。

 

道中のスーパーで買ってきた食材を次々に切っていく。豚汁をひたすら作り続けているだけある。さすがに手際がいい。

小気味良いリズムに乗せて、逐一野菜の切り方の意図などを説明する。火が通りにくい野菜はうんぬんなどなど。「はぇー」という感嘆の声だけは出しておく。

 

続いて肉を冷蔵庫から取り出した。

「色んな肉を試したけど、結局美味い肉使った方が美味くなるから。ホントは肉屋で買いたいけど、今日はスーパーの黒豚を使います」

若干偏見めいた表現になるが、料理にはまる独身男性は、得てして食材が高級思考である。

 

それ以降も森本の調理と語りは進捗していくのだが、私はその時点で結構酔っぱらっていたので、あとは覚えているコツだけ書き出す。

 

「ポイントはラードで味噌を炒めること」

「にんにくと生姜の香りはしっかり油に移すことが大事」

「カレー風味にならない程度に微量のカレー粉を入れる」

若干偏見めいた表現になるが、料理にはまる独身男性は、得てして無駄に調理工程に凝る。あとスパイスとかにもこだわる。森本も何やら変な小ビンからカレー粉を出していた。

 

そして皆がマリオカートに夢中になる頃、豚汁が完成。

 

食器が足りないため、丼なども駆使しなければならなかった。列に並び次々に豚汁をよそってもらう。さながら炊き出しような光景。

 

 

いただきます。

 

 

 

 

......めちゃくちゃ美味しい。

 

これまでの豚汁とは比べ物にならないほどコクがある。さらにラードで味噌を炒めたからか、普段の豚汁では感じられない香ばしさも加わっていた。

にんにく、生姜の風味も旨味を下支えしているし、わずかに感じるスパイシーさが食欲をそそる。これがカレー粉の力なのだろう。

 

何より、しこたま酒を飲んだあとの豚汁は体に染み渡る。

一緒に行った同僚たちは美味い美味いと飲み干し、おかわりに行く者もいた。

あの森本のスッとした顔も、わずかにほころび満足気である。

 

そして私は丼を置いた。

 

究極かどうかはわからないが、この豚汁はとんでもなく美味い。圧倒的なコク、旨み、香り。もう家庭料理の域をはみ出そうとしている。というか豚汁離れしている。

 

だが……

 

 

 

しかし……

 

 

ごめんなさい……

 

 

これは……

 

 

 

……もはや味噌ラーメンのスープになっていた。

 

申し訳ないが、私はスープを残した。