暇のパラメータ

暇なので書いてます。

その一秒をけずりだせ

 

今週のお題「マイルーティン」

 

少し前まで毎朝片道1.5時間かけて電車通勤していた。

しかしそれは決して辛いものではなく、東京から山梨に向かう方面の電車で100%座れるので、本を読んだり音楽やラジオを聴いたりと非常に充実した時間を過ごしていた。なんなら、だいぶ紅葉してきたなぁなんてボックス席の車窓から山間部の景色を眺めて、おにぎりをもしょもしょと食べる、そんな行楽じみた趣さえあった。

 

ただ、その優雅な時間の前には非常に大きな困難が存在した。私の致命的な朝の弱さである。私は寝覚めが非常に悪く、起きてからしばらくの間はなんの機能もしていない時間が存在する。windows98と思ってもらっていい。

就業時間に間に合うためには、7時21分発の電車に乗らなければならなかった。私の起床時間は毎朝6時45分。そして7時10分くらいまでは、ただぼうっとする起動時間を過ごす。そこから何とか頭と体が覚醒し、大急ぎで支度をして出発するのが7時15分を過ぎたあたりになる。

私の家から駅までは普通に歩くと10分かかるので、この出発時間では到底間に合わない。そのため毎朝猛ダッシュして駅まで向かい、ギリギリで電車に滑り込んでいた。そしてその後は前述の優雅な通勤。

これが私の一連のモーニングルーティンであった。

 

時間のペース配分があまりにも下手すぎる。それは認める。

25分もぼうっとするなんてもったいなすぎる。もう少し早く動き出せば、朝っぱらから走らずに済むのに。それか起動時間が必要なのが分かっているなら、もっと早く起きればいいのに。そういった意見が至極もっともであることも理解している。

しかし、朝の私はそんな真っ当な意見など通用しない。今の私は早めに覚醒して落ち着いて駅まで向かいたいと考えているが、朝の私は全く言うことを聞かないぼんくら野郎なのである。何があろうと時間のギリギリまでぼうっと過ごすし、少し早く目が覚めたら、しっかり2度寝を楽しむのだ。

 

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家から駅までのコースは大きく分けて2つの難所があった。まず一つ目が、家を出てすぐの教習所を大きく迂回するためのカーブ。緩やかに上った後、緩やかに下るカーブなのだが、このアップダウンに体力と精神を削られる。教習所に侵入して突っ切ってしまいたいという衝動を抑えながら毎日走っていた。それができれば2分は縮まるというのに。

そしてもう一つが駅の手前の急激な上り坂。もうこれがとんでもない角度であった。赤坂5丁目ミニマラソンばりの心臓やぶりの坂である。

最後の急な上り坂のことを考えると、できれば前半で貯金を作っておきたい。前半から突っ込んで、後半は耐える走りを意識する。その一秒をけずりだせ。東洋大学陸上部のスローガンを勝手に拝借し、心の中で唱えながら毎朝ギリギリの戦いを続けていた。

朝の私はどう考えても削るべきは、ぼうっとしている25分の方だということに気が付かない。

 

そうして朝の猛ダッシュ生活を続ける中で、いつも大体同じ場所で追い抜くおじさんがいることに気が付いた。スーツを着た40歳前後の少し恰幅の良いおじさんで、走っている訳ではないが、かなり急いだ歩調で駅に向かっていた。彼も一秒をけずりだそうと必死だったのだろう。そして猛然と走る私に追い抜かされる。もはや彼にとっては、私に追い抜かされることがルーティンとなっていたはずだ。

普段は教習所のカーブを下る途中で追い抜くことが多かった。そのため上りの段階で追い抜いたときは時間的に余裕があることが分かる。逆に下りきった後に追い抜いた場合は、かなり遅れてしまっているので、最後の坂を全力で駆け抜けなければならない。

私はそのおじさんをペースメーカーと呼んでいた。

 

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そんな生活を3年くらい続けただろうか。最後の方は私の走力が上がってしまい、余裕をもって駅に到着できるようになってしまった。

 

ちなみに今は職場が徒歩15分の距離に変わった。電車に乗り遅れるプレッシャーは無くなったが、朝の私との闘いは続いている。

なんとか8分台前半を狙いたい。その一秒をけずりだせ。