暇のパラメータ

暇なので書いてます。

10号車にて

ふと思い出した話。コロナが流行する以前の出来事である。汚い話なので注意。

 

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忘年会を終えて、新宿駅から中央線に乗って帰宅していた。だいぶ長い時間うだうだと飲んでしまったが、まだ終電の一つ前の電車に乗れた。中央線下りは終電が遅くて助かる。

車内は座れはしないが、立っている人もちらほら程度の混雑具合。この場合、座れてしまうと相当な高確率で寝過ごすため、かえって良かった。かといって立っていようが、そのまま寝過ごすことは往々にしてある。あった。なので意識を途切れさせないよう努める。具体的には、みすず学苑の奇天烈な車内広告をつぶさに読み込んでいた。

 

そして次の中野駅。そこで事件は起こる。

 

中野駅で降りる人は1人のみで、そのあと5~6人が乗ってきた。乗り込む方々は皆、私と同じくほろ酔いの様子である。と思ったら、最後尾からスーツを着た50歳くらいのおじさんが、マリオネットのように体を不安定に揺らしながら乗車してきた。目も虚ろで、とにかく酒臭い。ひどい泥酔状態である。ちょっと心配になるレベル。

案の定、発車するなり、おじさんはぐでっと糸が切れたように崩れて、車内にうつ伏せで突っ伏した。そして嘔吐。どうやらワインの飲みすぎらしく、飲んだものがそのまま出てしまったようだ。固形物がほとんど含まれていないので、いくぶん不快感は減少しているか。だがそれにしても大量だ。ワイシャツは真紅に染まり、一帯は血だまりのようになっている。

私はその光景をただぼうっと眺めていた。そして脳内のある映像が結びつく。

 

 

……SAWだ!!

おじさんの体勢、そして血だまりの感じが、SAWで冒頭から出てくる死体のそれと完全に一致していたのだ。何故か上がってしまう私のテンション。その間に蜘蛛の子を散らすように離れる乗客たち。私は完全に逃げ遅れた格好になった。しかしもう今更なので、次の駅で別の車両に移動することにして、つかず離れずの位置でおじさんの様子をそのまま伺うことにした。

少し落ち着いて観察すると、肩が若干上下しているので本当に死んではいなそうだ。当たり前だが一安心した。とはいえ危険な泥酔状態なのは変わりない。次の駅で駅員さん呼んだ方がいいのかとか、寝ゲロって窒息するって聞いたことあるな、とかいろいろ心配になって考えていると、突如おじさんがむくりと起き上がった。

 

 

……SAWだ!!

完全にSAWだ!!(激ネタバレ)

完全再現されたSAWの名シーンに、私は非常に満足した。どう考えてもこの状況は最悪な訳だが、何かいいものを見たぞという気分にすらなってしまった。

 

しかし、次の瞬間。おじさんが体を起こした際に生じた空気の流れが、エアコンの風に乗って、こちらにまで届いてきたことを感じた。さすがにこれは気分が悪……

 

 

……カシスだ!!

 

私の鼻腔に到達した臭気は紛れもなくカシスリキュールそのものであった。そう、彼が飲んでいたのはワインではなかったのだ。50歳前後と思しきスーツを着たおじさんが、まさかカシスソーダやらカシスウーロンやらで泥酔していたとは誰が想像できよう。

 

完全に裏切られた。SAWばりの衝撃の結末だった。